◾️STATEMENT
わたしは普段、日常を過ごしている中でよく物思いや感傷に浸っているんだと思います。
昔に誰かと話した記憶やその時感じたことが色々と心の奥に沈んでいて、
それと向き合っているうちに湧いてきたイメージを、
ペンで細密画という形で描き起こしてきました。
そのわたしの心の奥、あるいは深い沈思の水底は、きっと誰しもの心からも行ける、
つまり誰しもと繋がっている場所なんだという考えに行き着くこともあります。
わたしの作品を見て、どこか心に響く気がするなら、あなたもその場所を知っているのかもしれません。
わたしは、よくそこにいます。
 
-------- 野口綾音
 
野口絢音は、水性ミリペンと水彩紙の微細な凹凸を活かし、
緻密な線描によって白黒の物語世界を構築する幻想細密画家である。
その作品には、内面に潜む感情の揺らぎや思考の深層が、静かな佇まいの中に、
驚くほどの描き込みによって広がっている。
細部に宿る緊張感に触れると、観る者は自然と作品の奥へと引き込まれていく。
一方で、彼女が気分転換として描き始めたクレヨン画は、細密画とは異なるアプローチから生まれたもので、
そこには、思考を手放すことで現れる純粋な衝動や、心の素のままと呼べる色彩の動きがある。
軽やかに見えながらも、虚飾のない誠実さに満ちたその作品群は、結果として新たな作家名「 Boo AYANE NOGUCHI
を生み出した。
ただ、クレヨンという素材の自由さに身を委ねながらも、そこには細密画と同質の「真摯さ」が無意識のうちに宿り、時間が経過するごとに描かれる作品は驚くほどの描き込みと密度を獲得していった。
細密画とクレヨン画。モノクロとカラー。
対照的に見える二つの表現に取り組んできた野口絢音だが、そこに共通して現れるのは、どんな素材を使っても最終的には「細部へ向かってしまう」という作家の根源的な性質である。
クレヨンという自由で衝動的な手法に触れたときでさえ、時間が経つにつれ線は増え、色は層をなし、結果として細密画家としての本能へと回帰していった。
今回の展覧会は、その原点である水性ミリペンによるモノクロの細密画に、あらためて焦点を当てるものだ。
思考の深部へと降りていくような描き込みと、白と黒だけで立ち上がる世界の密度。
その中にこそ、野口絢音が長く追い続けてきた「彼女という存在の本質」が宿っている。
多様な手法を経験した今だからこそ、彼女は再びモノクロへ、一線一線を積み重ねる行為へ戻ってきた。
そこには、表現の中心にある「細部に向かう意志」が、より純度を増して立ち上がる。
今回の展示は、野口絢音という作家が本質的に目指してきた場所、―緻密な線の宇宙への回帰そのものである。
 
———————— Curator 米原康正
 
◾️PROFILE

野口綾音(のぐちあやね)
幻想細密画家。
孤独、静謐、瞑想、祈り、狂気、夢想といった、深い心の内面を描き出すような、どこか不穏で美しい世界観の物語性を含んだ細密画を制作している。
作品に色彩はなく、白い紙に黒色のミリペンを使い全てモノトーンで表現される。
絵本作品は、第一作目である「 THE UNPLEASANT NATURAL PARK」は幻冬舎グループより 2023年に刊行。第ニ作目にあたる「 THE MENU」は、本個展にて初版を少数限定販売。
細密画制作の傍ら、児童用クレヨンでテディベアなどのキャラクターを描くアーティスト活動も並行している。